台湾ラノベ読むよ

台湾現地のオリジナルライトノベル作品をレビューしていくブログ

台湾の女性向けラノベ『吾命騎士』にはシリーズものに必要な要素が全て詰まってました!

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2007年に刊行されてからマレーシア、シンガポールなど東南アジア地域を中心に販路を広げ、中国大陸でも好評を博した結果、シリーズ累計50万部という台湾ラノベの中では異例の売り上げを記録し、現在でも人気が高い

 

『吾命騎士』

 

について感想を書いていきます。

 

 

台湾のBL

 

日本のラノベ市場でもそうですが、台湾ラノベ市場においても強いのはやはり女性向け、とくにBLと呼ばれるジャンルです。

 

台湾の大手書籍通販サイトである「博客來」「金石堂」でも華文ラノベの売り上げランキング上位を占めているのはほとんどがBLか女性向け作品、あるいは恋愛もので、つづくのが中華テイストのファンタジー作品とホラー、といったところでしょうか。

 

日本的なライトノベル作品を書く啞鳴、甜咖啡といった作家も最近になって人気を集めていますが、全体的にみるとそのシェアは上記のジャンルほどでは、ないように感じられます(翻訳された日本のライトノベル作品のシェアにまぎれて、パッと見そうは思えない節もありますが)。

 

そんな中、台湾の女性向け作品、特に人気を博しているBLジャンルの作品を読んでみないことには、台湾ラノベは語れないだろう!ということで、自前のFacebookページで台湾のフォロワーさんを対象に「おすすめ台湾BL」について質問してみました。

 

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おすすめ、という聞き方だと割合絞り込まれますね。「まあまあ良かった」ぐらいでアンケート取った方が良かったかも。

 

この推薦される台湾BLの中で今回取り上げた『吾命騎士』は、BLジャンル特有の男性同士の性描写がないため、台湾BLに含まれるのかどうかについてコメントでも指摘があったのですが、そもそもBLジャンル初心者としては今回ぐらいライトな作品から入る方が懸命でしょう……幸い作品自体もギャグ中心で、BLという括りに縛られないエンターテイメント作品でした。男性にもファンが多いというのも頷けます。

 

『吾命騎士』の世界観

 

作品の舞台となるのは、大小様々な神様と人間、魔物たちが暮らす異世界。

 

太古から繰り返されてきた神々の勢力争いの結果、特に力を持つ神様たちの間で協定が結ばれ、戦災を繰り返さないために、全ての神様に対して直接的に神通力を使って争いを起こさないようにとの取り決めがなされることに。

 

唯一許されたのは人間の信仰心を集め、その多寡によって優劣を決めるというもの。

 

この結果、主人公たちが暮らす時代では人間世界はいくつかの宗派によって分断され、国家の版図もまたその宗派の勢力範囲と重なるようにして国境を接している。

 

物語の中心となるのは古い歴史のある「光明神殿」と呼ばれる勢力で、古代そうであったほどの勢力はすでにないものの、長い時間の中で形作られた歴史と伝統の力でその勢力圏を維持している。

 

ことにその「光明神殿」派の体系を維持しているのが、「十二聖騎士」と呼ばれる光明神殿が有する聖騎士部隊だった。

 

十二聖騎士は光明神殿派の教理に基づき組織された、それぞれ独自の力と個性を持つ十二人の聖騎士を筆頭とした騎士団で、その存在は聖人・偉人のそれに匹敵し、信徒からの厚い信仰心を集めている。

 

主人公はそんな光明聖殿の有する十二聖騎士の一人、「太陽騎士」の第三十八代目となった男性で、輝くような金髪と青い瞳、透き通るような肌を持った美男子。光明神に忠誠を誓い、常に笑みを絶やさず、物腰は穏やかで、どんな罪人も救おうとする、正しく完璧超人と言ってもよいような人物として登場する。

 

しかし彼には信徒たちには絶対に知られてはならない裏の顔があった。

 

正確には、神殿が有する十二人の聖騎士たち全員が、それぞれの裏の顔を持っていたのである。

 

「アイドルグループ」として描かれる「騎士団」たち

 

一言でまとめてしまうなら、『吾命騎士』は異世界を舞台にしたアンチ・アイドルものと言ってもいいかも知れません。

 

作品の根幹を形作っているのは、光明神殿という巨大な宗教組織を維持するために作り出された十二聖騎士というシステムが、長い歴史の中で形骸化し、その矛盾を露呈するさまを描くところにあります。

 

これを作者である御我はうまくギャグに落とし込んでいるのです。

 

たとえば主人公の太陽騎士は上述のとおり光明神に忠誠を誓い、その教理の手本となる人物ですが、堅苦しい聖騎士のイメージとは裏腹に気に入らないことがあれば毒づくこともする、ごく普通の「俗人」。

 

また罪人は絶対に赦さない冷酷な断罪人として知られる審判騎士ですが、その実態は心優しく大人しい青年で、罪人の処刑宣告を言い渡すだけで胃の中のものを全て戻してしまうような人間です。

 

勢力を維持するために生み出された十二聖騎士というシステムもまた維持されなければならないという事情から、神殿側は初代の聖騎士たちの「イメージ」を継承することばかりに注意を向けるようになり、結果、十二聖騎士団はほぼ外見のみで聖騎士に選出された者、また選出された後に「イメージ」にあうように性格を矯正された者などばかりで構成され、演出によって信徒の信仰心を集めるという、さながらアイドルグループのような存在となってしまっていたのです。

 

そんな日々の苦労を強いられる中で、主人公は聖騎士選抜試験にかかわる重大な事件に巻き込まれていきます。やがてその事件は神殿と王室の確執へと変化し、でこぼこでまとまりのなかった聖騎士団全体が一致団結してことに当たらなければならないほどの、大きな争いへと発展していくのでした……。

 

 シリーズものとしても満点、キャラクタ小説としても満点

 

 特に評価するならやはり騎士団という古典的な題材をアイドルものとして料理し直した点になると思います。

 

あとがきでも書かれていますが、女性向けシリーズを発表してきた作者にとって、「騎士」というのはいつか取り組んでみたいテーマだったようです。騎士、王子様という題材は女性向けとして非常に根強い人気を誇り、これを外すことはできない。

 

けれどそのままシリアスな作品に仕上げることなく、騎士を信徒から慕われるアイドル的存在と定義し直すことで、多数のキャラクタが入り乱れるハイファンタジー的な舞台の上を、次は彼らのどんな一面が見られるのかといった期待を常に読者に抱かせることで、物語の終わりまで一気に読む人を引っ張って行く力強さを獲得しています。

 

シリーズものとして人気があるのも頷ける構成、むしろシリーズものとして人気が出るために必要な要素をこれでもかと詰め込んでいるのがこの『吾命騎士』と言えるでしょう。

 

 

 

 精確には台湾「BL」ではありませんが……二次創作界隈で人気を博しているのも分かりますね。正反対の個性を持ったキャラクタが手を取り合って活躍するシーンには男女問わず胸が躍るものがあります。それが十二人分用意されているんですから、もうお腹いっぱいですわ。ウンコ薄い本だってそりゃ量産されるって道理ですよ。

 

 

 

キャラクタ小説として大満足の本シリーズ、マラソンできればしたいところです。

それにしても台湾BLってなんで日式ものに比べて100元ぐらい高いの?